2009/12/15

"Nation" (Olivier, National Theatre, 2009.12.12)



ファンタジックなファミリー・ドラマ
"Nation"
National Theatre公演
観劇日: 2009.12.12 14:00-16:40
劇場: Olivier, National Theatre


演出:Merry Still
原作:Terry Prachett
脚本:Mark Ravenhill
美術:Melly Still, Mark Friend
衣装:Dinah Collin
照明:Paul Anderson
映像:Gemma Carrington, Jon Driscoll
音響:Paul Arditti
音楽:Martin Lowe
作曲:Adrian Sutton
振付:Michelle Lukes
振付(Spear Dance):Adrian Decosta, Mike Denman
人形:Yvonne Stone
Fights:Jeannette Nelson

出演:
Gary Carr (Mau)
Emily Taaffe (Daphne)
Jason Thorpe (Milton, a Parrot)
Paul Chadihi (Cox)
David Stern (Captain Roberts)
Al Nedjari (Polegrave)
Michael Mears (Polegrave)
Basker Patel (Mau's father}
Gaye Brown (Daphne's grandmother)
Nicholas Rowe (Daphne's father)
Ewart James Walters (Ataba)

☆☆☆ / 5

イギリスは一年で最大のホリデー、クリスマス、へ向けて日々賑やかになってきた。ナショナルもそれに相応しい劇を上演している。

舞台は1860年。イギリス人の一団が乗った船が、南太平洋で津波に遭い、乗船していた白人の女の子Dahneはお供のParrotと共に、ロビンソン・クルーソーの様に、人気のない孤島に漂着する(Parrotは一種の道化。鳥のようではあるが、言葉を話す不思議な存在)。一方、その島は同じ津波で住民がほぼ全滅し、ただ一人、男の子Mauだけが生き残っていた。やがて、他の島から他にも津波の生き残りが加わり、彼らはこの島で新しい国(Nation)を起こす。若いDahneは彼らに加わり、助け助けられて、力を合わせて生き延びる。MauとDahneは、子供の出産の介助をしたり、ビールを醸造したり、侵略者と戦ったり、「裁判」を行ったり、死を乗り越えたりして、古い伝統を乗り越えつつ彼らの国を育て、彼ら自身も大人に成長してゆく。2つの文化の融合を、若者の成長や国家の成立と絡めて描いた、多文化理解・共存時代の『ロビンソン・クルーソー』。

鮮やかな照明、映像、歌、踊りなどをふんだんに盛り込んだ、半ばミュージカル仕立てのファンタジックな舞台。10歳以上可、となっていて、小学生にも充分楽しめる内容だ。大きなハゲタカ、巨大な野豚、布を使った海など、小道具大道具にも色々な工夫があった。背景には海の底が映像で映されたりもする。

前半は、色々なエピソードがまとまらず、私にはやや退屈に感じられた部分もあった。ストーリーそのものに今ひとつ力がなく、沢山の魅力的なエピソードとイメージを詰め込んではあっても、観客を充分引きつけられていないのではないか。しかし、後半の侵略者との戦いの部分はかなり盛り上がった。主役のDahneとMauを演じる2人、Emily TaaffeとGary Carrのはじける若々しさがとても印象的。確かに圧倒的な感動とか説得力があるとまでは行かないが、ファミリー・エンターティメントとしては、合格だろう。

イギリスでは12月になると多くの劇場で子供も楽しめる「パント」と呼ばれるジャンルの劇を上演する。パントは、パントマイムの略称だが、無言劇ではなく、子供向けの、歌や踊りの入ったドラマ。『ピーター・パン』や『シンデレラ』などがこのジャンルの定番。この"Nation"はナショナル・シアター版パントなのだろう。家族連れが目立ったが、私の様に大人が1人で見ても、充分楽しめる作品。

劇の良し悪しとは別に、私はこのような劇を国立劇場でやることの意義を強く感じ、大いに感銘を受けた。人種、肌の色の違い、文化や服装、習慣の違いを乗り越えて、DahneとMauが手を携えて生きていく様子は、子供達の心には、大人よりもずっと素直にしみ込むに違いない。多文化社会となりつつあるイギリスが多くの問題を抱えていることは分かっているが、このような劇を作り、それを沢山の子供達が見るイギリスの文化の豊かさを大変うらやましく思った。

2 件のコメント:

  1. 私も、この舞台みるので楽しみにしています。
    NTが、この季節に公演する子供向きの作品はいいですね。
    日本で翻訳されていないのがザンネンです。

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  2. コメントありがとうございます。ストーリーが弱い感じで、劇評では評判はいまいちです。しかし、ファミリー向けだし、あまり堅苦しいこと言わずに見ると、きれいな舞台ですから、結構楽しいです。また、視覚と音とアクションで見せるので、細かいストーリーが分からなくても楽しめると思います。Yoshi

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