2009/12/31

NHK 「百年インタビュー 蜷川幸雄」を見て



大分前に放映されたこの番組、妻が録画していたので、今日見た。インタビューするのは渡邊あゆみアナウンサー。

いつもながら彼のエネルギーは凄い。歳も取り、脳梗塞、心筋梗塞など、重篤な病気で満身創痍なのだけれど、走りながら現場で考えて演出する、いつも必死の演劇人生。いやはや、感嘆します。全共闘世代の焦燥感と挫折、商業演劇に移った時、仲間の多くから見放された事への悔しさ。人見知りで、自意識過剰なのに、役者やスタッフを動かすことが出来るのは、彼がいつも体力と精神の限界をさまよってないと気が済まないハングリー精神を持っているからと思う。彼のインタビューを見ていると、そういうところがまるでスポーツ選手のようだ。阪神の金本とか、そういうベテラン名選手が心身の限界に挑戦しているのに似ている。

その上で、私としては、彼に本当は立ち止まって、もっと考え、練りに練った演出、俳優をスポーツ選手みたいに動かすのではなく、議論しつつ落ち着いて考えさせる演出をして欲しい。昔、仏壇の中で繰り広げられる『マクベス』とか、『近松心中物語』の時と比べ、今の蜷川の舞台には大きな驚きが少ないのではないだろうか。イギリスでも有名な、彼の斬新なヴィジュアル・イメージも、どこかで使ったもののアレンジが多くなっているのでは?演劇は人との出会いで出来る、新しい才能を見つけ、ぶつかり合って新しいものを造る、と言っていたが、蜷川さん自身の貯金が無いと、創造的な化学反応を起こすのは難しい。蜷川組のスタッフと、一定数のコアとなる決まった役者を使い、プログラム・ピクチャーのように舞台を量産し始めているのではないだろうか。

彼は観念的な芝居は嫌いだと言うが、かなり考え、勉強しているのも確か。以前NHKの教養講座でシェイクスピアの話などされたが、学者嫌いのくせに、結構専門家の本も読んでいることが分かった。でも昨今は、残された時間が少なくなったせいか、頼まれたら断らずにひたすら数をこなして、仕事をし続けているように見えるが、どうなのだろう。もう少し時間をかけ、考え抜いた演出作品を見せて欲しいと思うのは私だけか。

と無いものねだりをしても、定期的にかなりレベルの高いシェイクスピアをやってくれる蜷川さんには大いに感謝している。それだけに今後、一層充実した演出を期待したい。


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